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日々徒然、さにわ語り。

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四月十四日の我が本丸。

※このドキュメントは都合よく現代語訳されています。



一年前のことを覚えてますか、と聞かれた。
そりゃあもう、忘れようがない、と。答えた。

名前を呼ばれて。「心」が「形」を持つ。
――呼び起される感覚は皆同じか。

まだ新しいい草の匂い。嗅いだことなんてないはずなのになぜかわかった。
自分にちゃんと足があって、両足でしっかりと立っていて、自分の体を認識して、それから目を、ゆっくり、ちょっと眩しいなって思いながら、開いて。
その人が目の前に居るのを、見る。



■ □ ■ □ ■



「最初は加州さんしかいなかったって、今じゃ信じられないですよねー」

ちょきちょきとハサミで色紙を切りながら、鯰尾が急にそんなことを言う。
手元にはいったいどれだけ飾りを作るつもりなのか、こんもりと紙の山が出来ていて。そこにさらに骨喰が同じくらい、どさりと乗せていく。

「ああ、初日?」
「そうそう。一年前の今日。いやー、あの日はほんっと大変だった記憶しかないんだけど!」

普段過去のことは気にしないなんて言っているくせに。とは言わない。
あの日が大変だったのはいわゆる初日組の共通認識だ。
俺もそう思うし薬研だってそうだろう。たぶん主も。

「いいなー、俺なんかまだここ来たばっかり!」

右も左もなーんにもわかんない! と、本当に来たばかりの信濃が色とりどりの輪っかを並べて。ぷくーと頬を膨らませる。そしてなぜかその頭に、同じ色紙で作った小さな兜を乱がちょこんと載せていた。
お前ら、遊ぶか作るかどっちかにしような?
と、今度はちゃんと注意しようとしたのに。ずいと目の前に指を突き付けられて、声が引っ込んでしまう。

「ずばり、加州さんから見て一番手のかかったのって誰でした?」
「は!? ちょっと、なんでいきなりそんな話になんの」
「だって加州さんは最初からいるんだから、他の、えーと、…………」

今は全部で54振りです、加州さん抜いたら53振りですよ鯰尾兄、とひそひそ声が補佐をする。
前田も平野も、真面目に付き合わなくていいから。

「そう、つまり他53振り全員後輩みたいなもんじゃないですかー」
「それはちょっと違うんじゃない!?」

いきなりな暴論に慌てて手を振ったら、近くにあった細切れの紙がぶわりと散ってしまった。
いやでもちょっとそれは待て。本当に。
どこぞの山姥切じゃないけど、名刀御神刀揃いのこの本丸で、まだまだ若い側の俺が先輩面するとか、そんなの無理に決まっている。天下五剣だっているし長曽祢さん相手にだって無理!

「せめてそこは一番頼りになったとか、そっち方面で持ってくべきじゃないの!?」
「えー。だってそれは薬研でしょ」
「…………薬研だけど」
「ほら。答えわかってるの聞いてもつまらないじゃない」
「つまるとかつまらないの問題じゃなくて!」

これはまずい。この流れは答えるまで続くやつだ。もういっそ鯰尾、って答えてしまおうかと思ったけれど、それで万が一真面目に取られて悩まれても困る。
指を突き付けられたまま、どうしよう、とどうにもできずにいると。
そこへ助け舟がすいと差し出された。

「あんまり困らせてんじゃねぇぞ、鯰尾」

頼りになる、と言ったばかりの声。薬研藤四郎。
廊下の方からひょいと部屋を覗きこんで、ちょっと見ただけで状況を把握したのか(それとも最初から見てたのか)苦笑しつつ。

「加州、大将が呼んでるぜ。行ってやんな」

なぜか、俺を見て、にやりと笑った。





後は任せておけ、と言う薬研に素直に任せて。主が待っているといういつもの執務室へ向かう。宴の準備で粟田口が詰まっていたあの部屋を出ると、急に静かになってしまったようで。思わず誰かいないだろうかと探してしまう。
春の景趣、一面桜色の庭。
池の側にいるのは来派の小さい組。
洗濯物を畳む堀川と、その手伝いの山伏さんとすれ違う。
縁側で並んでお茶を飲んでいるのは鶯さんと鶴丸さん、数珠丸さん。
やぁ加州、何かあったかい、と聞いてくるのはいつものこと。
蜻蛉さんと御手杵が門の方へ向かう。
そろそろ買い出し組が帰ってくる頃か。歌仙が買い込んでなきゃいいけれど。
姿が見えないのも、それぞれ、いつものように。過ごしているのがわかる。
大きな戦の最前線とは思えないほど、ここは穏やかで賑やかだ。

「――主? いるの?」

主がいるはずの執務室。
いつも庭が見えるように、と開けているはずの障子がなぜか閉まっていて、不思議に思いながら声をかける。
するとその瞬間、
さわりと爽やかな風が吹いて。庭の様子は一変していた。
桜の花は鮮やかな緑色に。空の色は濃い青に。

――ああ。

主が何をしたいのか理解した。
そりゃあね、俺は主の初期刀で、主とは一番長く付き合ってきたんだから。
笑ってしまいそうになるのを精一杯こらえて真面目な顔をして、障子に手をかける。
本当にさぁ、だったら言ってくれたらいいのに。俺、今、内番服だよ。
あの日みたいに畳を靴で踏んだりもしない。

障子を開ける。真っ新な畳の匂い。
わざわざこのために新調した、と思うともうダメだ。笑ってしまう。

目の前に居るその人に。


「――あー、川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、」


一年前と同じ場所で、一年分の思いを込めて。



「俺が最初の一振りで、良かっただろ?」
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