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日々徒然、さにわ語り。

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近侍日誌:七月十一日

※このドキュメントは都合よく現代語訳されています。


七月十一日  薬研と巴形



夕暮れ。
いつものように調薬室で薬の在庫を確認しているところに、近付いてくる足音があった。
まだ聴き慣れない音。体躯は大柄。足取りは乱暴ではなく、むしろ計ったように正確に同じ歩幅で同じ速度。
だいたいの当たりを付けてから向き直れば、失礼する、と一言。

「ここにいたか、薬研藤四郎」
「ああ。あんたが来るとは珍しいな、巴」

障子戸を開け、そこに立つのは巴形薙刀。
つい最近の鍛刀でやってきた、岩融に次ぐ二振り目の薙刀だ。
銘も逸話も持たぬ巴形の集合体と自ら語る通りに確たる名を持たず、大将が新入りに付ける恒例のあだ名を宝のように喜んでいた刀だ。
だから俺達も、この刀を親しみを込めて巴と呼ぶ。一部頑固者の例外はあるけれど。

さて。
その巴が、じいと俺を見下ろしている。
この刀、まるで生まれたての雛のようで。自我……もっと単純に言えば心とか感情だが、その扱いがまだ不得手と見える。自分の不調を自分で申告するという、そんな当たり前の事でさえも。

「どうした、どこか怪我でもしたか」

だからこちらから尋ね、部屋の中に入るように促した。
けれど。

「いや、俺ではない」

ゆるりと首を振って否定される。巴でないとすれば誰の事か。
――巴は、今日も大将の側に居たはずだ。

「加州清光が言っていた。主の様子がおかしい時は、まずお前に伝えよと。違ったか」
「違わない。どんな様子だ、わかる範囲でいい」

声をかけながら抽斗を開け塩飴をいくつか取り出す。この暑さにやられた可能性は高い。脱水まで起こしていなければいいが、そこまで巴に判断できるか。冷却シート(いわゆる冷え○タ)を取り出した、ところで。

「こんのすけが持ってきた政府からの連絡を、……予定表だと言っていたか。それを見て固まって、その後頭を抱えて唸っている」

ぴたりと止まる。



「どうした。お前にもわからぬか」
「あー、うん、大丈夫だ。それは放っておいても、…………ああいや、俺も行く」
「そうか。大丈夫だというなら良いのだが。理由を聞いてもいいだろうか」
「そうだな、割とよくあることだから知っておいた方がいいな」

とりあえず大事は無さそうで。引っ張り出したあれやそれを抽斗に戻す。
戻す、途中で。思い直して塩飴を一つだけ。持って行くことにする。
たぶん大将が落ち着くには役に立つだろう。水を飲むのも忘れているに違いないし。


――ああまったく。今年の夏も忙しくなりそうだ。
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